交換日記

ももちゃん

引用

ケンジタキギャラリー・シュウゴアーツ

彫刻とは何か。古代、火山噴火で火砕流に埋もれたローマの都市ポンペイ。人間は気化し、実体と空間が逆転した空洞となって発掘された。かつて写真で目にした戸谷さんは、あらかじめ設定したイメージに向かって素材を加工する「彫刻」の伝統に対し、内外の境…

P.39

西麻布の店で、その男の人を初めて見たとき、この人は他人だと思った。この男の人は自分とは別の人間だということが、まるで体臭のように伝わってきた。よく磨かれた半透明のガラスの板がわたしたちの間に立て掛けられているようだった。たとえばトシと一緒…

P.55

刑事はとたん、妻を失うのが怖くなった。そんなことを恐れるのは、若い日に、まだ妻の耳元で睦言をささやいていた頃以来である。しかし今日のそれは当時のような愛情の証としての空想とは真逆の、より切迫した、身勝手な恐怖として迫ってきた。深く愛するも…

P.24

郵便受け 「マンモスの夢を見ると、次の日、必ずいいことが起こる」これが、このころのトットの得意な話だった。そして、事実そうだった。だから、トットをよく知ってる人は、 「どう最近、マンモスのほうは。出てる?」と聞くくらいだった。

P.107

の音楽から一貫して聴こえてくるあの「密室感」と「親密さ」の源は、彼女にとってスタジオこそが「自分の部屋」であるからだと自分は考えている。 家庭環境に幼い頃から振り回されてきた彼女にとって、両親と「親と子」ではなく「ミュージシャン同士」として…

P.271

おかしな言い方だけど、自分に余白がなかったのは、自分には余白なんてないと気づくことが出来なかったからなのです。私には余白などない。私は私全部で私なのです。 つまり私は、あなたのことを、私すべてで愛しているということ。

P.217、P.249

「アイザックは英語名。イサクがなまってそうなったの。」「イサクは、旧約聖書の創世記に出てくる人なの。英語ならアイザックで、ヘブライ語ならイツハク。アラビア語だってあるのよ、イスハーク。」 「ある寺院で、バター彫刻を見たの。バター彫刻って、素…

P.143

(それにしても女性というものは、「向き合う」という言葉がどうしてこんなに好きなのだろうか)。

P.77

女の子が「いつもそうだよね」と言うときは、悪いことに決まっている。放蕩の時期に、僕は嫌ほど経験していた。その言葉に続くのは、きっとこうだ。

P.342

、そもそも何かを信じて祈っていたのではなく、祈る自分を愛するために祈っていたのだから。

P.161

体育の授業をしていると、たまに山羊の大群がやってきた。そのときは、体育の道具をどけなければならなかった。山羊たちは、僕らが待っているから早く行かなきゃ、なんて頭がないから、空き地からはみ出した草を食んだり、ゴミを漁ったり、随分のんびりして…

P.75

僕はそれでも、その「はだいろ」を大切にしていた。ずっと。 今では「はだいろ」という色はもうない。肌の色があわいオレンジだと決め付けるのは差別だということで、「はだいろ」は、「うすだいだい」という色に変わったのだ。

膕ひかがみP.69

「あなたを愛しているのに!あなたを愛しているのに!それがわたしの唯一の可能性なのに。あなたに近づけば近づくほど、わたしたちは遠ざかって行くのね。どうやったらあなたを知ることが出来るの? どうしたらあなたの作品とわたしの愛を近づけることが出来…