交換日記

ももちゃん

P.217、P.249

アイザックは英語名。イサクがなまってそうなったの。」「イサクは、旧約聖書の創世記に出てくる人なの。英語ならアイザックで、ヘブライ語ならイツハク。アラビア語だってあるのよ、イスハーク。」

 

「ある寺院で、バター彫刻を見たの。バター彫刻って、素晴らしいの。本当に精巧で、美しいの。そして誰が作ったのか分からない。何故ならそれは、仏様にさしあげるものだからよ。

私はそこでも泣いた。涙があとからあとから溢れて来て、止まらなかった。そのときにアイザックに会ったの。アイザックは私の涙を見た。見ざるをえなかったのでしょう。だって私は立っていることすら出来なかった。座り込んで、ずっと泣いていたの。そしたらアイザックが、こう言ったの

『あなたはこの彫刻を見るためにやって来たんですね』

その言葉は半分間違っていたし、半分正しかった。私はこの彫刻を見るためにチベットに来たんじゃない。でも、来たのよ。私はここに来た。

分かる?    歩。

私がここに来なかったら、この彫刻を見ることはなかったし、私の涙はなかったのよ。」

姉はまるで、今目の前にその彫刻があるみたいに、指を伸ばした。何かに触れようとしていた。そうしながら、でも、姉はまっすぐ立っていた。まっすぐ揺れることなく、まっすぐに。

「私が、私を連れてきたのよ。今まで私が信じてきたものは、私がいたから信じたの。

分かる?   歩

私の中に、それはあるの。『神様』という言葉は乱暴だし、言い当ててない。でも私の中に、それはいるのよ。私が、私である限り。」